【薬剤師執筆】トリコモナス症の症状と治療法・男女別の感染事例

トリコモナス症は、膣トリコモナス原虫が感染しておこる病気です。

膣という文字がついていますが、男性にはうつらないというわけではありません。男女ともにかかる性行為感染症の一種で、下着やタオル、浴槽を通じて感染することもあります。

多くの場合、薬によって治りますが、治療を行わないと症状はよくならないので感染がわかったらすぐに治療するようにします。再感染することがあるため、性行為の相手とともに治療することが必要な病気です。

トリコモナス症の症状の特徴

膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)原虫に感染すると、膣トリコモナス原虫自体が直接炎症をおこす、あるいは膣トリコモナス原虫がいることで他の細菌が増殖し、症状が出ると考えられています。

男女により、症状が異なりますので、見ていきましょう。

 

男性器の症状

男性では、膣トリコモナス原虫に感染しても「約10日前後」は症状があらわれない期間(潜伏期間)があります。この潜伏期間をすぎると尿道に炎症がおこりますが、一般的にはこの潜伏期間を過ぎても症状がないことが少なくありません。

そのため、感染していることに気づかず、他の人にうつしてしまうことがあります。症状がないとはいっても、感染していない人に比べると尿道からの分泌物が多くなっています。

尿道から感染した膣トリコモナス原虫は、前立腺や精嚢に移動します。前立腺や精嚢から尿道に膣トリコモナス原虫が出てきたときに尿道に炎症をおこすといってよいでしょう。

 

女性器の症状

膣トリコモナス原虫に感染すると、女性の場合は半数程度の人で、泡状の悪臭の強いおりものの増加や、外陰部や膣に刺激やかゆみを感じるようになります。逆にいうと、半数程度の人では症状ががないため、感染していることに気づかず、他の人にうつしてしまうことが少なくありません。

トリコモナス症の症状は、膣トリコモナス原虫自体が炎症をおこす、あるいは、膣内のバランスが崩れることにより、他の菌が増えてしまうことによると考えられています。

通常、膣内にいる菌は乳酸桿菌が最も多く、乳酸桿菌が膣粘膜細胞の中にあるグリコーゲンをもとに乳酸をつくりだし、膣内をpH5以下の酸性にしています。酸性にすることで、他の細菌が増えるのを抑えているわけです。ところが、膣トリコモナス原虫もグリコーゲンを使ってしまうため、膣トリコモナス原虫に感染すると、乳酸桿菌が使うグリコーゲンが少なくなります。すると、乳酸桿菌がつくりだす乳酸が減り、膣内のpHの酸性度が少なくなり、他の細菌が増殖して、膣炎の症状があらわれるようになるのです。

なお、グリコーゲンは膣粘膜が豊富な時期―性成熟期にはたくさんありますが、年齢が上がるにつれて、卵巣機能が低下すると、グリコーゲンの量は少なくなります。これは高齢者の膣トリコモナス症の治療に関係してきますので、治療法の項で説明しましょう。

 

トリコモナス症の感染原因

膣トリコモナス原虫は尿道や前立腺、膣などに生息するため、性行為により相手にうつるわけですが、それだけが感染の原因ではありません。

感染している性器がふれた何かを介して他の人にうつることがあります。たとえば、膣トリコモナス原虫が、下着やタオルについていたり、婦人科の検診台についていたり、浴槽の中にいたりすると、それにふれることで感染してしまう可能性があります。

このようなことが、性行為を行っていない女性や子どもにも感染がひろがる原因です。

また、男性では症状がないことが少なくないため、感染に気づかずに性行為を行ってしまうこともあるでしょう。

女性の場合も、感染しても半数ぐらいの人では症状があらわれないため、同様に気づかずに性行為を介してうつしてしまうことになります。

 

トリコモナス症の治療法

男性では初尿、女性では膣分泌物を用い、顕微鏡で見たり培養をしたりすることで検査します。男性の場合はかかっていないという検査結果が出る場合もありますが、性行為の相手が感染しているのであれば、一緒に治療することが必要です。

検査の結果、トリコモナス症と診断されれば、薬を飲むことで、根本的な治療ができます。治療をしないと症状はよくなりませんので、必ず治療が必要です。約90~95%の場合は最初の薬による治療で治りますが、なかには、再度、薬を飲むことになる治りにくい場合もあります。

高齢になると、膣粘膜のグリコーゲンの量が少なくなるため、膣トリコモナス原虫に対する治療をしても、乳酸桿菌による乳酸の生成が十分にならず、膣内pHが思うように下がらず、他の細菌をおさえることができない場合があります。その際は、他の細菌をおさえるための治療を行うようにします。

 

初めての治療

男性では尿道を洗浄するだけでは前立腺などにいる膣トリコモナス原虫には効果がないため、飲み薬で治療を行うことが必要です。女性の場合も、膣だけでなく、尿道にも膣トリコモナス原虫が感染している可能性があるため、飲み薬で治療することが必要です。

ただし、女性で飲み薬が使えない場合には膣錠を使うようにします。

 

飲み薬の場合

◇メトロニダゾール(商品名:フラジール錠)

1回250 mgを1日2回10日間飲む薬です。膣トリコモナス原虫にメトロニダゾールがとりこまれてから、ニトロソ化合物に変化して、膣トリコモナス原虫に作用をあらわします。

飲むにあたっては、一度に2回分を飲んではいけません。飲み忘れたときは、気がついたときに飲むようにしますが、次に飲む時間に近いときは、1回飲むのをとばすようにします。

メトロダゾールを飲んでいる間にアルコールを飲むと、おなかが痛くなったり、はいたり、顔が赤くなるなどの症状があらわれることがありますので、アルコールは飲まないようにします。

なお、妊娠中に薬を飲むと、おなかの中の胎児にまで薬が届いてしまうため、妊娠3か月以内は飲むことができません。

◇チニダゾール(商品名:チニダゾール錠)

1回200 mgを1日2回7日間飲む薬です。メトロニダゾールよりも強い効果があり、毒性も低いものとしてつくられました。妊娠3か月以内は飲むことができません。

チニダゾール錠を飲んでいる間と飲み終わってから3日間は、アルコールを飲まないことが必要です。アルコールを飲むと、おなかが痛くなったり、はいたり、顔が赤くなるなどの症状があらわれることがありますので、アルコールは飲まないようにします。チニダゾールを飲み終わった後の3日間もアルコールを飲んではいけないのは、チニダゾールは体の中から外に出されるまでの時間が長いという特徴があるからです。

精力剤なので薬では治りません。

 

膣錠の場合

◇メトロニダゾール(商品名:フラジール膣錠)

1日1回250 mgを10~14日間、膣内に使います。膣内の水分によって錠剤が発泡して、効果をあらわします。膣錠の場合は、血液中にほとんど移らないため、妊婦などに使う場合の安全性は、飲み薬よりも優れています。

メトロニダゾールの膣錠を使った場合は、ときに(0.1~5%未満)、膣にかゆみや刺激感があらわれることがあるため、その場合は使用を中止することになります。また使用により、膣トリコモナス原虫やその他の細菌がいなくなったことにより、カンジダ菌がかわりに増殖してしまうことがあります。その場合には、カンジダ症の治療を行うようにします。

◇チニダゾール(商品名:チニダゾール膣錠)

1日1回200 mgを7日間、膣内に使います。膣内の水分によって溶けて効果をあらわします。チニダゾールを膣錠として使うときには、膣内での直接的な膣トリコモナス原虫への作用を期待して使用するわけですが、飲み薬と比べると膣錠でも10%程度は血液中に吸収されたという外国データがありますので、飲み薬での注意事項についても、注意するに越したことはありません。

チニダゾールの膣錠を使ったときにも、カンジダ菌が増殖してしまうことがありますので、その場合は、カンジダ症の治療をするようにします。

 

2回目以降の治療

初めての治療で、メトロニダゾールを使って効果が十分ではなかった場合、再度、メトロニダゾールを使って治療を行うには、少なくとも1週間は間をあけることが必要です。これは、メトロニダゾールという成分にはニトロ基が含まれていて、このニトロ基の発がん性が否定できないためです。

また、チニダゾールを使って効果が十分ではなかった場合にも、再度、チニダゾールを使うまでには、少なくとも1週間は間をあけることが必要です。

 

その他の治療

ご紹介したように、メトロニダゾールの飲み薬では1日2回10日間、チニダゾールの飲み薬では1日2回7日間使うのが基本的な治療法ですが、1回だけ飲む方法もあります。

◇メトロニダゾール(商品名:フラジール錠)

1.5 gを1回だけ飲む方法です。250 mg錠を一度に6錠飲みます。メトロニダゾールは250 mgを1日2回10日間飲むのであれば保険診療で使えるのですが、1回だけ飲む方法は保険診療では行うことができませんので、全額自己負担になることに注意が必要です。

さらに治りにくい場合には、外国で行われているような、メトロニダゾールを500 mgを1日2回7日間飲む方法や、2 gを24時間おきに3~5日間飲む方法もありますが、専門の医師の指導のもとに治療は行わなければなりません。

◇チニダゾール(商品名:チニダゾール錠)

2 gを1回だけ飲む方法です。1回に、200 mg錠では10錠、500 mg錠では4錠飲むことになります。チニダゾールを1回だけ飲む方法は、保険診療が認められています。

 

トリコモナス症の感染事例

膣トリコモナス原虫に感染した患者さんの事例をもとに、トリコモナス症の症状・治療・その他の注意事項について、具体的におさらいしていきましょう。

 

30歳台の女性、トリコモナス症

【症状】

外陰部や膣内がかゆく、おりものが泡立ち強い臭いがあるため、受診した患者さんです。

【治療】

膣内容は黄色~膿性で泡状に見え、膣の粘膜は赤くはれ充血していました。膣分泌物の検査により膣トリコモナス原虫が検出されたため、メトロニダゾールで治療が開始されました。

メトロニダゾールを1日2回10日間飲み、膣トリコモナス原虫は見られなくなりました。

【その他の注意事項】

性行為のパートナーもトリコモナス症に感染している可能性があるため、まずは検査をし、感染しているようであれば、一緒に治療をするよう、医師から指示がありました。

飲み薬により、膣トリコモナス原虫は見られなくなったものの、次回の月経後に残っていた膣トリコモナス原虫が増殖していないことを確認したほうがよいと説明されました。

 

40歳台の男性、トリコモナス症

【症状】

特に症状が出たわけではないのですが、2週間前に性行為をもった相手がトリコモナス症であることがわかり、受診した患者さんです。

【治療】

自分でわかる症状は出ていませんでしたが、検査の結果、膣トリコモナス原虫に感染していることがわかりました。メトロニダゾールを10日間飲む治療を行うことになりました。

【その他の注意事項】

膣トリコモナス原虫は性行為によってうつるため、治るまでは性行為を慎むよう指導されました。また、性行為のパートナーにも感染している可能性があるため、受診するよう、すすめられました。

毎晩、晩酌する習慣がありましたが、メトロニダゾールを飲んでいる間は、アルコールを飲むと、腹痛や嘔吐、顔があかくなるなどの症状が出ることがあるため、アルコールは飲まないよう説明がありました。

 

60歳台の女性、トリコモナス症

【症状】

膣からのおりものが泡立っていて強い臭いがするため、受診した患者さんです。トリコモナス症と診断されましたが、患者さんからの聞き取りでは、ふだんは性行為をすることはないとのことなので、さらに医師が最近の出来事について確認すると、温泉施設でサウナに入ったことがわかりました。サウナに入る際に腰掛台にしいてあったタオルに、直接座ったことが原因で膣トリコモナス原虫に感染したのではないかと推測されました。

【治療】

メトロニダゾールの飲み薬で治療が行われ、膣トリコモナス原虫は殺虫することができました。しかしながら、膣の炎症が完全にはよくならないため、他の細菌の感染をおさえる抗生物質で追加の治療を行い、症状を取り除くことができました。

【その他の注意事項】

不特定多数がふれるタオルなどから、膣トリコモナス原虫はうつることがあることを医師から説明されました。

 

参考文献

  • 性感染症 診断・治療ガイドライン2016(日本性感染症学会)
  • 各医薬品添付文書
    • フラジール内服錠250 mg添付文書(塩野義製薬)
    • フラジール膣錠250 mg添付文書(富士製薬工業)
    • チニダゾール錠250 mg「F」・チニダゾール錠500 mg「F」添付文書(富士製薬工業)
    • チニダゾール膣錠200 mg添付文書(富士製薬工業)

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