【薬剤師執筆】HIV感染症(エイズ)の症状と治療法・男女別の感染事例

HIV感染症(エイズ)は、性行為によって感染する病気―性行為感染症の中でも、特に注意すべき病気の1つです。

1981年にアメリカでHIV感染症が認識された当初は、免疫が落ち他の感染症を発症すると死亡してしまう病気でした。

しかし現在は、さまざまな抗HIV薬がつくられて、早期に抗HIV薬を開始すれば、HIVに感染していない人と同じぐらい長生きできるようになっています。

ただし、抗HIV薬で完全になおるわけではありませんので、薬は飲み続けなければなりません。

HIV感染症(エイズ)の症状の特徴

HIV感染症は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染することによっておこる病気です。

HIVに感染しても、最初はかぜなど他の病気にもよくみられる症状があらわれ、それをすぎると症状が出ない時期が続きます。そのため、HIVに感染したことが自分ではわからない場合も少なくありません。

時間が経過し、免疫が落ちた状態で他の感染症(エイズ指標疾患)にかかると、後天性免疫不全症候群(エイズ)とよばれる状態になります。エイズと診断される前に気づかずに性行為を行うと、知らずにHIV感染症を移してしまう可能性があります。

HIV感染症の症状は、初感染期、無症候期、エイズ期にわけることができます。HIV感染により免疫が落ちて他の感染症にかかってしまう病気なので、男性、女性で、特に違った症状があらわれるわけではありません。

 

初感染期

HIVに感染すると、2~6週間の間に、発熱、リンパ節のはれ、のどの炎症、皮膚の発疹、筋肉痛や関節痛、頭痛、下痢、吐き気や嘔吐があらわれます。

これらの症状はかぜの症状と似ているため、症状だけで、HIVにかかったことを判断するのは容易ではありません。

しかし、HIVに感染しているため、性行為により他の人にうつることがあります。

症状が出た時期と1か月半ほど前の時期との間に、何か性行為で思い当たることがあれば、医師に伝えることが早めの診断と治療開始となり、長く生きられる結果につながるといえるでしょう。

 

無症候期

初感染期がすぎると、HIVには感染しているものの、症状があらわれない期間に入ります。

この期間の長さは、患者さんによって異なり、数年から十数年の幅があります。症状があらわれないとはいっても、体の中で毎日100億個前後複製されるHIVに対して、免疫を担当するCD4陽性Tリンパ球が対抗し、やっと無症候期が維持されている状態です。

免疫は落ちていないので他の感染症は防ぐことができますが、HAND(HIV関連神経認知障害)といった脳の病気や、心臓や血管の病気、腎臓の病気、骨の病気などを引き起こすことが知られています。

薬の飲み忘れがなかった患者さんで、急に飲み忘れが出てきた場合には、HANDになっている可能性があるかもしれませんので、薬の服用について、他の人の介助が必要になることも考えられます。

 

エイズ期

無症候期で保たれていた免疫の働きが、HIVの増加に追いつかなくなり、免疫不全という状態まで低下してしまうと、他の感染症にかかり、その症状があらわれるようになります。

代表的なニューモシスチス肺炎、カンジダ症、サイトメガロウイルス感染症などのほか、さまざまな感染症にかかることが知られています。

このような病気になってしまうと、死亡率10~20%といわれていますので、このエイズ期に入らないよう無症候期を維持するために抗HIV薬でしっかりと治療することが必要です。

 

HIV感染症(エイズ)の感染原因

HIV感染症の原因であるHIVは、血液や体液を介して感染するため、精液や膣分泌液に含まれているHIVが、性行為により、相手の粘膜や傷口から体の中に入ったときに、感染することがあります。

感染する可能性は1%程度と考えられています。性器から性器への感染は、性行為時にコンドームを使うことで予防できますので、避妊のためだけでなく性行為感染症を防ぐためにも、コンドームを使うようにしましょう。

さらに、HIV感染症の患者さんは早期治療を行ったほうが、性行為での感染率が少ないことが知られています。

そのほか、アナルセックスにより性器から肛門へ、オーラルセックスにより性器から口へとうつることもありますので、HIV感染症とわかっている相手とは、このような性行為は避けておいたほうがよいでしょう。

また、HIVは必ずしも性行為だけで感染するわけではありません。妊婦がHIVに感染していた場合には、胎盤を介した血液や、出産時の血液、母乳の中にいるHIVが、生まれてくる子どもに感染することがあります。感染する危険性は20~30%と考えられています。

 

HIV感染症(エイズ)の治療法

感染が疑われた場合には、血液を用いて2段階の検査(HIVスクリーニング検査、確認検査)を行い、HIVに感染しているかどうかを調べます。

2段階で行うのは、HIVスクリーニング検査では、感染しているという結果が出たとしても、間違っている場合があるからです。確認検査でもHIVに感染しているという結果が出たら、なるべく早く、抗HIV薬による治療を開始します。この開始時期が早ければ早いほど、長い間普通の生活をすることができると考えられています。

自分がHIVに感染していた場合には、性行為の相手にも必ずHIVの検査をすることをすすめるようにしましょう。

HIV感染症の治療は、抗HIV薬を使いながら、2つのことをみていきます。1つは、免疫が落ちていないかをみる指標で「CD4陽性Tリンパ球(CD4)数」です。

この値は、500/mm以上であれば初感染期、200~500/mmは無症候期、200/mmであればエイズ期といってよいでしょう。

もう1つの指標が「血漿HIV RNA量」です。血液の中でどのぐらいHIVがつくられているかを示すものですので、少なければ少ないほどよいといえます。

抗HIV薬を飲み続けて、血漿HIV RNA量が検査してもわからないほど少なくなった状態を維持することを目標にします。

ここで注意したいのは、最初に使った抗HIV薬でHIVが増えるのを十分におさえられなかった場合、薬がきかないタイプのHIVが出てきてしまうかもしれないということです。

薬がきかないタイプのHIVが出てくると、使った抗HIV薬と同じような種類の抗HIV薬もきかなくなってしまいます。

これを防ぐためには、薬の飲み忘れがないよう、100%を目標にしっかり薬を飲み続けることが必要です。

 

抗HIV療法

抗HIV薬にはさまざまな種類の薬がありますが、1つの種類の薬だけ飲むと、薬がきかないタイプのHIVができやすいため、複数の種類の薬を組み合わせるHAART(highly active antiretroviral therapy)とよばれる多剤併用療法が一般的に用いられています。

従来、複数の抗HIV薬を併用するため一度に飲む薬の数が多くなることが飲み忘れの1つの原因となっていました。

しかし現在では、複数の抗HIV薬を1つの錠剤にまとめた薬(EVG/cobi/FTC/TDFやDTG/ABC/3TC)が発売され、1日1回1錠の服用で抗HIV療法を行うことができるようになっています。

ただし、どの抗HIV薬でも、飲み続けることは必要です。

それぞれの抗HIV薬の種類の中で第一推奨とされている薬をご紹介しましょう。

 

逆転写酵素阻害薬(核酸類似体)

◇エムトリシタビン(商品名:エムトリバ)…略語FTC

1回200 mgを1日1回飲む薬です。必ず他の抗HIV薬と一緒に使います。

◇テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(商品名:ビリアード)…略語TDF

1回300 mgを1日1回飲む薬です。必ず他の抗HIV薬と一緒に使います。

◇エムトリシタビン・テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(商品名:ツルバダ)…略語TDF/FTC

1錠にはエムトリシタビン200 mgとテノホビル ジソプロキシルフマル酸塩300 mgが一緒に入っており、1日1回1錠を飲む薬です。

必ず他の抗HIV薬と一緒に使います。

 

逆転写酵素阻害薬(非核酸類似体)

◇エファビレンツ(商品名:ストックリン)…略語EFV

1回600 mgを1日1回飲む薬です。必ず他の抗HIV薬と一緒に使います。

 

プロテアーゼ阻害薬

◇アタザナビル硫酸塩(商品名:レイアタッツ)…略語ATV

アタザナビル400 mgを1日1回飲む方法のほかに、アタザナビル300 mgをリトナビル100 mgと一緒に1日1回飲む方法があります。

いずれの場合も、必ず他の抗HIV薬と一緒に飲むことが必要です。

◇ダルナビル エタノール付加物(商品名:プリジスタ)…略語DRV

ダルナビル600 mgをリトナビル100 mgと一緒に1日2回食事中あるいは食事のすぐ後に飲みます。必ず他の抗HIV薬と一緒に飲むことが必要です。

 

インテグラーゼ阻害薬

◇ラルテグラビルカリウム(商品名:アイセントレス)…略語RAL

400 mgを1日2回飲む薬です。必ず他の抗HIV薬と一緒に使います。

◇エルビテグラビル・コビシスタット・エムトリシタビン・テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩(商品名:スタリビルド)…略語EVG/cobi/FTC/TDF

1回1錠を1日1回食事中あるいは食事のすぐ後に飲みます。

1錠には、エルビテグラビル150 mg・コビシスタット150 mg・エムトリシタビン200 mg・テノホビル ジソプロキシルフマル酸塩300 mgが入っています。

複数の抗HIV薬が1つの錠剤に一緒に入っていますので、この薬だけ1日に1回飲むことで効果が得られます。

◇ドルテグラビルナトリウム(商品名:テビケイ)…略語DTG

50 mgを1日1回飲む薬です。必ず他の抗HIV薬と一緒に飲むことが必要です。

◇ドルテグラビルナトリウム・アバカビル硫酸塩・ラミブジン(商品名:トリーメク)…略語DTG/ABC/3TC

1錠を1日1回飲みます。1錠には、ドルテグラビル50 mg・アバカビル600 mg・ラミブジン300 mgが入っています。

複数の抗HIV薬が1つの錠剤に一緒に入っているため、この1錠だけを1日に1回飲みます。食事をとったかを気にせずに飲むことができる薬のため、使いやすいといえるでしょう。

 

CCR5阻害薬

◇マラビロク(商品名:シーエルセントリ)…略語MVC

感染しているHIVが細胞にあるCCR5受容体というものに指向性がある(CCR5指向性HIV)かどうかを確認し、CCR5指向性がある場合に使うことができる抗HIV薬です。

1回300 mgを1日2回飲みます。必ず他の抗HIV薬を一緒に飲むことが必要です。

 

他の感染症に対する薬

エイズ期には、HIV以外の感染症の症状があらわれますので、感染症にあわせた治療薬を用います。

それぞれの治療薬のうち飲み薬をご紹介しましょう。

 

ニューモシスチス肺炎の治療薬

◇スルファメトキサゾール・トリメトプリム(商品名:バクタ)

1錠にはスルファメトキサゾール400 mgとトリメトプリム80 mgが入っており、ニューモシスチス肺炎の治療には、1回3錠を1日3~4回、3週間飲みます。

 

カンジダ症の治療薬

◇フルコナゾール(商品名:ジフルカン)

1日1回100 mgを3~5日間飲みます。

 

サイトメガロウイルス感染症の治療薬

◇バルガンシクロビル(商品名:バリキサ)

1回900 mgを症状がなくなるまで1日2回食後に飲みます。

 

HIV感染症(エイズ)の感染事例

HIVに感染した患者さんの事例をもとに、HIV感染症の症状・治療・その他の注意事項について、具体的におさらいしていきましょう。

 

20歳台の男性、HIV感染症

【症状】

39℃後半の熱と下痢、のどの痛み、咳、鼻水のため、受診しました。

検査によりインフルエンザではないことがわかり、抗菌薬が処方されましたが、3日たっても熱が下がりません。他の病院を受診したところ、1か月ほど前に性風俗店でサービスを受けていたことがわかったため、性行為感染症が疑われ、HIVをはじめいくつかの性行為感染症の検査を行いました。

その結果、HIVに感染していることがわかった患者さんです。

【治療】

熱は1週間ほどで下がりましたが、HIVに感染していることがわかったため、抗HIV薬3剤併用による治療を始めることになりました。

【その他の注意事項】

医師からは、抗HIV薬を飲み続けていれば、エイズ発症をおさえることができるけれども、薬の飲み忘れがあると、薬がきかなくなることがあるため、必ず忘れずに飲むよう、説明がありました。

また、HIVに感染したあとに性行為を行った相手がいるなら、その人もHIVに感染していないか検査する必要があるといわれました。

 

20歳台の男性、HIV感染症、エイズ(後天性免疫不全症候群)

【症状】

2か月前から乾いた咳と全身のだるさがあらわれ、1か月前からは動くと呼吸が苦しくなっていました。

1週間前に38℃台の熱が出てじっとしていても呼吸が苦しくなり、受診した患者さんです。

ニューモシスチス肺炎が疑われ、検査によりニューモシスチス肺炎とわかりました。

その後HIV感染もわかり、エイズと診断されました。

【治療】

ニューモシスチス肺炎の治療のため、スルファメトキサゾールとトリメトプリム、プレドニゾロンによる治療が開始され、熱が下がり、呼吸困難も改善されました。

その後、HIV感染症の治療として、抗HIV薬3剤併用療法が開始されました。

【その他の注意事項】

医師からは、まずニューモシスチス肺炎を治療した後HIVを治療することと、HIVに感染しているため、他の人に感染するような性行為は避けるよう説明がありました。

また、抗HIV薬を飲んでいても、HIV感染症はなおるわけではないため、忘れずにしっかり飲み続けるよう、指導されました。

 

参考文献

  • 性感染症 診断・治療ガイドライン2016(日本性感染症学会)
  • 各医薬品添付文書

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